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日記など。

映画『LIFE!』、そして旅について

 

忙しい仕事を抜け出し、少しだけ早めに休みをとってゆっくり休み、友人と沖縄まで旅行に行っていた。この歳になって初めての沖縄だった。沖縄には本土とは違う文化が確かにあり、我々が普段触れている世界とは異なった物語が紡がれている場所だった。人々がその土地を愛しながら暮らしている姿、そして人々に愛されながら生きてきた海や森。人と自然が共に生きている姿。そういったものを目にするのは、とても気持ちの良いことだった。

 

 

 

とはいえ、最近は旅行といっても友人や恋人と、コンパクトにまとまった、快適なものが多くなっていて、やはり学生時代のような、自分の世界観がぐわんぐわんと揺らいだり、見たことのない世界がばーっと広がるような感覚に襲われるような旅の経験は、長いことできていない。最後に外国でローカルのバスに乗ったのっていつだっけ。見たこともないような景色を自分の目に焼き付けること。自分とはまったく異なった価値観の中で生きる人々と出会うこと。自分の常識が通用しない世界で、もがいてみること。そして、その経験をしっかりと、素直に、心で感じること。それが旅に出る理由のはずだ。旅することによって、人生が変わるかどうかはわからない。変わる人もいるだろうし、そうではない人もいるだろう。しかし、確実に言えることは、旅は人の生き方を豊かにしてくれるということだ。逆に、旅がなければ人生はとても味気ないものになってしまうだろう。少なくとも僕の場合は。

 

 

To see the world, things dangerous to come to, to see behind walls, draw closer, to find each other, and to feel. That is the purpose of life.

 

 

年末にひとりでDVDを観た映画『LIFE!』は素晴らしい作品だった。

 

米「LIFE」誌は、これまで現代の人類の重要なシーンを写真や文章を通して人々に伝えてきた、偉大な雑誌だ。主人公のウォルターは16年間、LIFEの写真管理部でネガの管理という、決して陽の光を浴びることのない地味な仕事を続けてきた。ウォルターは空想の中では思いを寄せる女性に勇敢な姿を見せたり、誰も経験したことのないような経験をする冒険家になるが、現実の世界では地味で、冴えないサラリーマンだ。

 

時代は変わり、LIFE誌の完全なWeb化が決定される。息を飲むような傑作をLIFEに提供し続けた写真家のショーンから、彼の最高傑作である「25番のネガ」を、最終号の表紙にするよう、LIFE社に手紙が届く。しかし、「25番のネガ」がどうしても見つからない。ウォルターはネガの所在を探るため、ショーンを追いかけ、グリーンランドアイスランドアフガニスタンを旅していく。

 

伝説の写真家であるショーンは実際にウォルターに会ったことはなかったが、LIFE社の薄暗い一室で、誰にも注目されることなく自分の写真を大切に現像してきたウォルターを信頼していた。「25番のネガ」は、そんな信頼と最大限の敬意を表した、まさしく最高傑作だった。

 

 

アフガニスタンの山奥で、ユキヒョウの撮影を行っていたショーンに、ウォルターはついに出会う。そこでショーンはこう語る。

 

 

Beautiful things don't ask for attention.

 

 

言うまでもなく、ここで言う「美しいもの」は、ウォルターのことでもある。ウォルターの仕事は、LIFEという雑誌にとって真に価値のあるものだが、地味で日の目を見ることはない。だからこそ、この映画の原題は、"The Secret Life of Walter Mitty"となっているのだ。ウォルター・ミティの隠された人生。

 

 

目の前の物事に、真摯に取り組むということは、美しい。それでも、真実を見つけるためには、人は知らない世界に飛び出していかなければならない。冒頭のLIFE社のモットーにもあるように、「壁の裏側を見る」必要がある。ウォルターは今までの自分を捨てて、なりふり構わず未知の世界に飛び出した。そして、ついに「25番のネガ」をー自分にとって本当に大切なことを、人生(LIFE)の神髄をー見つけた。

 

 

ロマンティックで、マジカルな、傑作。旅に出る意味、そして生きる意味を考えさせられる。そして、何よりも、見た後に無性に旅に飛び出したくなる物語だ。

 

 

カメラ越しにユキヒョウを見つけたショーンに、ウォルターは「撮らないのか?」と話しかける。ショーンは答える。

 

 

 -Sometimes I don't. If I like a moment, for me, personally, I don't like to have the distraction of the camera. I just want to stay in it.

 

- Stay in it?

 

- Yeah. Right there. Right here.

 

 

美しい瞬間に「留まる」、「身を委ねる」…日本語に訳すのが難しい表現だが、とにかく、"Stay in it"である。そう、それこそ、旅をする理由。

 

 

思い返してみたら、カメラを撮ることを忘れて、ただ茫然と立ち尽くした経験が、僕の平均的な同年代と同じか、ほんの少しだけ多いくらいの旅行経験の中にも(実際はどうなんだろう?)、ある。カメラを撮ってしまったら、この思い出が途端にチープなものになってしまうのではないか。そんなことを考えるような瞬間。雨に濡れるオランダの街。夕日に沈むモスタルにかかる橋。シエナのこの上なく美しいカンポ広場。モンマルトルから眺めるパリの姿。カッパドキアのこの世のものとは思えない絶景。屋久島の大自然。群馬の山奥で眺めた星空。沖縄のマングローブの森。

 

 

今年は知らないところにたくさん行こう。見たことのないものを見る旅に出よう。そして美しい一瞬に身を委ねよう。

 

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