gezellig

日記など。

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「帰る」という言葉の意味をよく考える。実家に「帰った」あと、僕は東京に「帰る」のだろうか。本当の意味で実家に帰ったことなど、大学で東京に出てきてから、はたしてあっただろうか。どうしようもなくやることのない年末年始、家族が集まってくだらないテレビ番組を見ている中、ひとり生まれ育った部屋に籠っていると、不思議なことに楽しい思い出ではなくて嫌な思い出や、思い出したくない感覚ばかりが蘇ってくる。まだ小さかった時、一刻も早くこの街を抜け出したかった。そうしないと、自分の人生が、陰鬱な灰色の空に押しつぶされてしまいそうで。僕はこの街で一生を過ごすことに決めた人たちーそれは自分の両親さえも含むーの判断を理解しようとせず、ただただ忌み嫌うだけの最低の人間だったし、今も本質的にそんな自分を変えることはできていないのだ。なぜ地元の大学に行こうとするのか。なぜ地元の企業で働こうとするのか。そんなことは人の自由だし、もちろんそこには人それぞれの理由があるはずなのに、僕はまるで東京で学び東京で働いた自分の選択が絶対的に正しいとでも言うような勢いで、地元を毛嫌いした。早く東京に「帰り」たい。こんなところで時間を無駄にしている場合じゃない。僕の居場所は東京にある。そんな馬鹿げた独り言を声に出すことなく脳内をぐるぐると駆け巡らせながら、時間をやり過ごす。実家に帰るたびに、そんなことをしている自分の姿に気づいて、情けなくて悲しい気持ちになる

 

予定よりも早く東京行きの新幹線に乗る。東京に「帰って」きたらあとはもういつもと変わらない怠惰な休日だ。適当にご飯を食べて、適当に昼寝をして、ネオンがギラギラと輝く新宿の街に繰り出す。買わなくてもいいものを買い、会わなくてもいい友達に会い、しなくてもいい話をして、自分の陳腐な物欲と承認欲求を満たす。今僕はとても失礼なことを言っている。そうだ僕は最低な人間なんだ。そんな気持ちになるときが一年のうちに数回あって、つくづく自分という人間が嫌になる。最低な人間であること自体に対してではなく、そんなことで鬱々と悩んでいる自分に対して、だ。人間なんてものは大抵は下衆で最低だ。僕だってそんな最低な人種のひとりにすぎない。

 

仕事にいささか疲弊していた年末の僕はどうやら年明けの月曜と火曜を休みにしていたようだ。朝起きて何一つやることがないことに気が付いた僕はこの尊い休日を最低なものにしてやろうと決め込み、まずはもういちど目をつぶることにした。飲み会で飲んだ焼酎のせいか、夜遅くに食べたラーメンのせいか、必ずしも快適な睡眠ではなかった。だからなのかどうかはわからないけれど、変な夢を見た。僕はどこかの組織のスパイかなにかで、敵の組織のアジトから何か重要な情報を盗み出し、脱出を試みていた。途中、自分の正体が暴かれてしまう危機的な状況に陥ったけれど、機転を効かせて逃げ切ることができた。一体全体なんのためにそんな危険な行動をしているのか、自分のやっていることが何につながっているかもわからないままに、僕は危険な思いをして、身を削って働いていた。まるで現実世界での俺みたいじゃないか、と思ったけれど、「危険な思いをして、身を削って働く」なんて大層なことはしていない。結局自分は自分を悲劇の主人公に仕立て上げたいだけなのだ、と思ってまた暗い気持ちになる。もうちょっとオトナになろうよ。だって、おまえ、何歳だよ?何か嫌な出来事があったわけでもないのに勝手にすさんだ気持ちになりながら、中華料理屋でビールを飲んで、適当なつまみを買って、酒を飲む。あれ、最近、酒に頼っていないか?それってまずくないか?でもいーや、オトナならお酒を飲みたい時だってあるよね。ほら、そうやって都合のいい時だけオトナになろうとする。

 

ねえあの頃はもっと切実でリアルだった「何かをなさねば」という思いは、もしかして、今の自分を苦しめてはいないだろうか。あの頃の、「ここを抜け出せば何かを成し遂げられるはず」なんていう考えと、何かを頑張っているようで何も成し遂げられず、心は空っぽのままの今の自分との、どうしようもないギャップは、どうやったら埋まるのだろうか。埋める必要があるだろうか。忘れてしまえばいいのではないだろうか。自分の過去から何を消し去ることができるだろうか。懺悔すれば救われるだろうか。救われたとしても、ねえ君は今どこに行こうとしているの?

 

「孤独」という言葉を、久しぶりに感じた。友達も、恋人もいるけれど、こうやってひとりで過ごす自堕落な休日というのは、どうしようもなく孤独だ。ほら、嫌な奴だろう?友達も恋人もいるのに、勝手にセンチメンタルな気分になり、こうやって誰に向けるでもない文章を書きなぐっているんだ。

 

きっと明日も、記憶に残らない休日をすごす。それが終わったら仕事だ。日常が始まって、こんなくだらないことを考える時間だってなくなる。だからどうした?考えなくて済むなら、それが一番じゃないか。